Little AngelPretty devil
           〜ルイヒル年の差パラレル

    “一足早く…vv”
 


地球儀や世界地図の中に見る日本は 何とも小さな列島で。
こんな小さいところなんだのに、
それでも北と南の端っこ同士では、随分と気候も違ってて。
都内、都心部で
あれほど大騒ぎになった大雪の降った二月の半ば以降、
そのまま何となく寒いのが続いてるのが忌々しかったのに、

 「うあ凄っげ、何んか咲いてるし。」

停まるのを待つのももどかしげ、
ボックスカーから飛び出したのは、
ライトダウンのジャケットにパーカーを重ね着し、
スポーツウェアを思わせるよな
エア感のあるパンツを合わせるという、
ちょいと小じゃれた恰好をした小柄な坊や。
まだちょっと伸びしろのありそな四肢を、
それは伸び伸びと跳ねさせて。
不揃いだが十分に生き生きした緑が顔を覗かせている草っ原を、
たったかと先陣切って駆けてゆき。
続いて飛び出し、それを追うのが、
ふさふさの毛並みも見事な、小さめのコリー、
キングという名の、シェットランド・シープドッグさん。

 「おいおい、転ぶなよ?」
 「ほーい♪」

うららかな陽の降る中を、
淡い金の髪が軽やかに躍るのが
あらまあと居合わせた人らの眸を引き、
何とも愛らしい面差しがさほどバタ臭くはないのを見て、

 「北欧あたりのハーフかしらvv」
 「いやいや、
  あの可愛さはクォータくらいじゃないの?」

飛ぶように駆けるシェルティくんの、
バランスのいい優美な姿といかにもマッチした風貌が、
“可愛い”という方向で人の眸を集めてしまうのも相変わらずで。
後から飛び出したが、そこは牧羊犬で
あっと言う間に追いついたキングにじゃれつかれ、

 「わっ、こらキング。」

後足立ちになられると、昔は簡単に押さえ込まれもしたけれど。
そこはさすがに背丈も伸びた妖一くんで、

 「そっち行ったら、菜の花畑を踏んじゃうぞ?」

さっきはつい興奮して、やや荒っぽい言葉遣いだったものが、
今はちょこっと…周囲の人目に気づいたか、
大人しめのそれへ意識されているのが、

 “さすが、さすが。”

その一角が車でのキャンプにと解放されている、
そんな草原は、夏こそ込み合うが今時は穴場のようで。
都内はまだまだ、
ちょっとでも冷え込むと雪が舞うよな寒さだというに、
こちら、早咲きの河津桜や温泉で有名な、
静岡は伊豆まで南下すれば。
弾けるような濃さの黄色をたたえて菜の花が咲き乱れ、
よく知らないと梅や桃と間違えそうな、
緋色の濃い河津桜も満開寸前。

 『千葉のほうへってのは、
  今時分だと
  早咲きの花畑目当てとか魚料理目当ての観光の人出が、
  随分前から定番化してるほども多いらしいし。』

この春は例年にないほど寒いので、
賊大アメフト部の春合宿の足場に
体を動かしやすい土地を探してのロケハンと洒落込んだ、
葉柱主将と鬼軍曹の妖一くん。
仰々しいお題目だが、実際のところは先乗りのようなもの、
この辺りにあるという、
葉柱家の知己の別荘を借りる予定はもう立っていて。
もうとっくに春休みの大学生らは、
入試が済んで
晴れて新加入することが内定している新人たちを引き連れ、
今週の頭から合宿に入るのだが、

 『ずりぃ〜〜っ。』

まだ小学生の鬼軍曹さんだけは、
当たり前の話ながらまだまだ学校がある身なので、
合流するのは20日前後に構えられた終業式後と出遅れる。
今年は例年と(笑)場所も違うと聞いて、
狡い狡いと、こういうときだけ幼子のようにごねたため、
週末を利用して、
宿舎とグラウンドの下見というお出掛けになった次第。
そうともなると、一応はオフィシャルな代物のはずだのに、

 『あら、伊豆といえばもう随分と暖かくなっているはずよね。』

妖一くんも一緒なら丁度いい、キングも連れてってあげてよと、
お母様から声をかけられたため、
わんこも一緒という行楽風のお出掛けとなっており。

 「キング、ほ〜ら取って来いっ。」

どこから出したのか、
自分で持って来たならば、彼もまた
“行楽風情”になることは織り込み済みだったものか。
坊やの手から それはなめらかな軌跡に乗って宙を翔った、
小さめのフライング・ディスクを、
ふわふわした毛並みをやや絞ってしまうほどの勢いで、
弾丸よろしく的確に追っかける
シェルティちゃんの才も相変わらずの鋭さであり。

 「…わ、凄い。」
 「可愛いのに偉いねぇ。」

やはり観光客なのだろう、
観ていた家族連れが思わずパチパチと手を叩いた、
見事な空中キャッチをご披露し。
風になびく毛並みを優雅に振り振り、
さくさくと軽やかな足取りで、
ディスクを投げた坊やの元へ
“えっへん”と戻るのが何とも可愛い。
勿論、そんなわんこを待ち受ける坊やもまた、

 「えらいぞ、キングっ。」

懐ろに抱え込み、よしよしと撫でてやって
ご褒美のジャーキーをどうぞと差し出すのを忘れない。
そんな二人のいる場所は、
そこからなだらかな斜面の始まるところで、
先にあるのは、もうすぐ満開らしい此処の自慢の河津桜の木立ち。
既に五分咲き以上の咲きようは見事で、

 「いいよなぁ、ルイたちは明日っから合宿かぁ。」

さわさわ吹く風はさすがにまだ冷たいものの、
それでも震え上がるよな都内のそれとは格段の差で、
いかにも春が近いなぁと思わせるまろやかさ。
こんないい環境でアメフト三昧なんて羨ましいなと、
言外に言いたげな坊やなのへ、

 「まま、のんびり骨休めしてろよな。」

新人がしょっぱなから噛み付かれて、
怖じけづかれちゃ困るからなと、
こそり思った首脳陣だったことはナイショにし。
こっちも待ち遠しいのだよという心境、
そこは包み隠さず表す笑みを、
男臭い口許へと浮かべる総長さんなのへ、

 「〜〜〜まあ、いいけどよ。//////」←あ

そんな笑顔が不意打ちだったのか、
この子には珍しくも、ごにょごにょっと言い返すのが、
東からの風に乗って飛ばされてゆく。
そんな和やかな春の陽だまり、
早く北上してくれるといいですねぇ…。






   〜Fine〜  14.03.09.


  *テレビで観たんですよ、伊豆の春。
   房総半島の春も早いそうですが、
   何と言っても伊豆には
   私の永遠の憧れの熱海を始めとする
   ほっかほかの温泉もあるしィvv(おいおい)

   陽の照りようだけなら、
   何とかこちらも ほこほこと春めいて来ておりますが。
   この何日か、
   午後に決まって雪がはらはら舞ってる寒さを
   何とかしてほしいです。


ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv

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